“萌えどころ・いろいろvv”

 


高校生から始めた身、
しかも当初のうちは怒涛のような勢いで展開される状況の中、
立派な“巻き込まれ型”という状態で、
あれよあれよと流されていた身だったので。
自分のやってることを客観的に見てみる機会がなかなか訪れなくて。

 “都大会の決勝で負けたら関東大会へは進めないって、思ってたくらいだったし。”

そでしたねぇ。
まま あれは、そんなことを前以て知っていたなら、
せっかく勢いづいてた闘志に水を差しかねないと思った蛭魔さんが、
新規のメンツが全員、気づいてなかったのを幸い、故意に黙ってたんでしたが。
…誰も調べようと思わなかったらしいのも、意外っちゃ意外。
(トーナメント表を見りゃ、添え書きとかに書いてあるだろに…。)
厳重な防具のせいか、夏場は基礎トレ中心と化すのが一転、
秋から一気に全部の年代層のリーグが始まり、
それらの選手権の決勝が集中する冬場に忙しいことが、
ある意味“誉れ”なのがアメフトというスポーツなんだと、
このごろ何とはなく実感しつつあるセナくんで。
自分が始めた頃も、それほどメジャーなスポーツじゃあなくて。
土地によっては盛んだったけれど、自分には馴染みが薄かったように、
知らない人はてんで知らない、
ラグビーとどう違うの?なんて当たり前に訊かれるようなスポーツで。

 “そうそう、モン太がそんな風に混同してたんだものな。”

それも結構長いことだったのに。
今じゃあ、
パスの最強といやぁって話題になると、必ず名前が出るほどの存在になってる。

 『それを言ったら、欧州じゃあ野球はそんなに知られちゃあいないんだよ?』

そんな話をしてくれたのが桜庭さんで、

 『向こうではサッカーやラグビー、バレーボールにハンドボール、
  フィールドでするホッケーなんかがメジャーで、
  野球の説明をすれば、ああクロケットかって言われちゃう。』

欧州ではツール・ド・フランスだけじゃなく、
バンクでの自転車競技も相当にメジャーなスポーツでね。
そんな選手権大会で、日本の競輪選手の超有名な人が何と10連覇して帰国したとき、
向こうじゃあとんでもない熱狂で見送られた堂々の凱旋だったのに、
日本の空港には取材の記者さんとか一人も来てなくってがっかりしたって話がある。
相撲の優勝パレード並のお祝いされてもいいほどのことだってのに、これだものって。
バスケットボールや野球やアメフトは、
アメリカ生まれのまだまだ歴史が浅い競技だから。
例えば日本では、ハンドボールとかホッケーは、
競技としては知ってたって試合をわざわざ見に行く人は少ないだろう?
でも、向こうじゃあプロリーグまでしっかりある。
日本では実業団どまりなスポーツだって言うと、
あんな面白いものをどうして?なんて、怪訝そうな顔をされちゃうんだよと、
そういうお話をしてくれたことがあって。

 『以前はただタレントとして顔が指してただけだったものが、
  今じゃあ学校や競技場の近辺じゃあなくとも、
  “王城の桜庭だ”なんて顔が指しちゃうようになったから、
  アメフトも随分と普及して来たもんだよねぇ。』

王城の〜って言われる方が、
タレントとしての知名度云々より嬉しいように言ってたのが、
セナとしては一緒に嬉しくなっちゃった逸話でもあったのだけれども。

  ……で。

アメフト関わりの“有名”が、結構広まって来た今日この頃。
有名校がメディアで持て囃されると、
それを見聞きした人が関心を持ち始めるというのはよくある話で。
創部間もない新参者だった身で、
あっと言う間に全国区での頂点まで達してしまった泥門デビルバッツは、
在校生らが我がことのように誉れを広め、近隣の皆様が注目し始め、
そんなせいでかあっと言う間に部員らも微妙に有名人となってしまい。
コンビニや何やでも
“見てるよ、知ってるよ、頑張れよ”なんてなお声がかかるようになった。
嬉しいと喜んでられた間はよかったけれど、

 「…あ、今の、アメフトのアイシールドじゃん。」
 「アイシールド?」
 「あのね、もんの凄く足が速い子で…。」

通りすがりやすれ違いざまに視線が飛んで来て、
通り過ぎてから こそこそって囁かれるのは、さすがにちょっと恥ずかしい。
ちらちらって観てから連れ同士で顔を見合わせあって、
そのまま くすすって笑われると、
何かどっか妙なカッコでもしてるんだろかって、
最初の内はあちこち見回しちゃったもの。
気にするこたないって、皆は言うけど、

 「あ…ほら、あの子。」
 「あ、知ってる知ってるvv」

うあ、やっぱり落ち着かないよう。/////////
全然よその人を言ってるんだって思い込むことにして、
知らん顔してやり過ごすことにしているけれど。

 「サインもらおっか?」
 「え〜、やだ恥ずかしいよう。」
 「だって、クラッシュボウルわざわざ観に行ったんでしょ?」
 「あれは…甲子園ボウルまでは観に行けないから、それで。」

うあ、この人たち詳しい。
通りの向こうのお兄さんが芸人の○○に似てるとか、
そういうチラ見じゃあないらしい。
こういう時はその場から離れてしまうに限ると、
そそくさと速足になり、雑踏の中へと紛れてしまうのが一番だって、
最近になってやっとそういう対処が取れるようになったけれど。
コートの襟元へと巻いたマフラーへ、小さな顎先埋めながら、
頬を赤くし思うのは、

 “はぁ、やっぱりなかなか慣れないよう。/////////

そもそもは小心で引っ込み思案な方だったのだ。
嬉しいとやに下がるどころじゃなくの、
這う這うの体で逃げるのが精一杯のセナとしては。

 “蛭魔さんや桜庭さんはともかく…。”

セナよりずっと前から有名人だった進さんは、どうやって対策取っていたんだろうか。
そこのところが時たま気になる。
周囲からの視線とか取り沙汰にあんまり感知しない人ではあるけれど、
めきめきと有名になるにつれ、あの風貌の凛々しさもまた、
インカレスポーツ界のイケメンなんて特集を組まれていたりもし、
何とか王子のお仲間みたいに言われてもいたようだったし。

 “やっぱりあの俊足でダッと駆けてって誤魔化したんだろか。”

誤魔化す…と、自分で思ったものの、
あの進さんがそれはしないかなぁとも思われて。
高校生までならば、桜庭さんとか高見さんが一緒のときが多かっただろうから、
あのお二人が何とかしたのかなぁ?
学校自体、やんごとなき人も多く通ってたそうだから、
それなりの対処が取られてたんだろけれど。
U大学へと進学し、フランベルジュに所属している進さんには、

 “そういうことへ気をつけてくれる人って付いてないし。”

まま、チーム自体が注目株だってことで、
警備とまでは行かないが、
プレス関係への強引な取材等、
お断り致しますという通達が敷かれてはいるらしいけれど。

 “一人でいるときは…どうしているのかなぁ?”

最近じゃあ、
大学ナンバーワンを決める“甲子園ボウル”や、
その後の社会人との“ライスボウル”は、
テレビの全国ネットで放送されてもいるほどで。
進さんのお顔もそれと同時に随分と広まってるはずで。
やっと同じ1部リーグに上り詰めたばかりなボクらの比じゃない、
知名度なはずだろうに。
試合のない時で、練習のない時。
ああ、そうか。
練習は日々怠らない人だから、
用事がない限り、さほど外出はしない人だから、
特に困ったりはしないのかな。

 “……でも。/////////

  じゃあ、今日は?

時間が出来たからって。
体が空いたからって。
久し振りに逢いませんかって連絡したらば、
構わないぞってお返事くれて。
それでの、久々の待ち合わせなんだけれど。
あんな、どこの韓流スターですかってほど きりりとしたお兄さんなのに。
背も高いし、筋骨充実した存在感のある人だから、
人目を引かないはずはなくって。

 “ああ、そういえば…。”

昔も目立ってはいたんだよね。
ただ、恐持てがしてか、遠巻きにされてたんだった。
別段 挑発的だった訳でもないのに、
強いて言えば あまりに堂々と毅然としている人だったので、
オーラ負けして近寄り難くて。

 “最近はそうでもなくなったけれど…。”

いやそれは自分が進さんに慣れたからそう思うだけなのかも?
あやや、いやあの、慣れただなんて言うのは滸がましいかしら…。/////////
何だかグルグル、頭の中で色々とグルグルして来ちゃったそのまんま、
待ち合わせていたデパート前までを見通せる、
空中交差になった歩道橋の端まで辿り着いたセナだったのだが。


  ――― え?/////////


昔は野暮ったいからとからかわれたり、それがために敬遠されたりしていたものが、
最近では可愛らしさや 晩生(おくて)さ、繊細、
転じてツンデレな女子の必須アイテムであるかのごとく、
萌えの上位ジャンルにまで堂々の昇格を果たし。
誠実、清楚、インテリジェンス、
はたまたそれがちょっぴり乱れるところに硬質な色香という
意外な表情を生むという萌えの要素として、
男子のイケメンにも あっさりと波及。
伊達で掛けるものへ“アイウェア”などという今時の名前までつけられているほどの、

 「……………進さ、ん?」
 「小早川。」

早かったのだな、まだ10分前だがと。
それより先に来て待っていた偉丈夫が言う。
見慣れた面差し、いつものお声。
お顔を見ると自然とこちらの顎が上がる身長差も、いつもと同じだけれど。

 「それ、メガネ…。」

  視力、落ちたんですか?
  ああいや…これは。

先だってのライスボウルを観戦していて、
スタジアムのスタンドで、人垣に取り巻かれてしまったのだが。
その話を聞いたらしい桜庭が、

 「外出するときはこれを掛けろと。」

色のついたメガネを掛けるのは本意じゃなかろうし、
素通しのものでも印象が変わるからとの助言をくれて…と。
そんな説明が途中で途切れてしまったのは、

 「…小早川?」

ちゃんと聞いているものか、
ほややんと…お顔の焦点があやふやになってしまったセナくんだと気がついたから。
ああ、そういえば昨日からこっち急に寒くなったから。
もしかして風邪でも拾ったものか。
大ぶりの手を頬へと添えると、

 「あ…。///////

やっとこ我に返ったらしいが、それと同時、たちまち真っ赤になった彼でもあって。

 「こば…。」
 「進さん、それだけはいけません。」

胸の前にて小さな手を組み合わせ、
どうかお願いですからと、大好きな人へと懇願を始めたセナくんだったのは、

 “なんでそんな、ますます萌えどころを増やすことをするかなぁ。///////

きりりと精悍なお顔に乗っかった、
丸みのある黒ぶちのメガネさんの威力がどれほど絶大か。
鋭角なばかりという雄々しさを、仄かに和らげるは知性の象徴。
銀縁の冷たいのじゃあないセレクトが、
ともすれば柔らかな印象を醸してさえいて。

 「それではカモフラージュになりません。」
 「そ、そうなのか?」

正確に言えば、進清十郎さんは隠せても別なイケメンさんを生み出してますと、
言っても通じやしなかろう、困った方向での朴念仁。
相変わらずな二人なようですよと、
くすすくすすと微笑っているよに、餅花模した飾り物が風に揺れてる、
そんな頃合いの昼下がりの一景でございます。







  おまけ。


 お願いですから外して下さいと、没収した素通しの眼鏡。

 「それにしても、本当に随分と印象が変わりますよね。」

 ひょいっとセナくんが試しに自分も掛けた途端に…………、

 「………判った。俺が悪かった。」
 「はい?」

 お後がよろしいようで。
(笑)



  〜どさくさ・どっとはらい〜  09.01.09.

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  *最近妙に好きな“オードリー”の春日さんが、
   そういやあの態度は進さんに通じてないかと思う今日この頃。
   (…すいません、すいません、すいません。)
   ちなみに“家族”も好きです。
   今ちょっと名前が出て来ませんが、
   ヤフーをヤホーと読んだり、
   クリリンをクソソソとか読み間違えて畳み掛ける、あの人も好きです。
   ここんとこ随分と“お笑い”にはまり過ぎで、
   テレビ局の思う壷です、自分。

  *……じゃあなくて。
   ありがちなネタですいません。
   バックがバックだったんで、落ちももろバレでございましたね。
   でも、進さんやセナくんて、眼鏡には縁がなさそうだなと思ったもんで。
   蛭魔さんとか桜庭くんは、
   おしゃれや変装にって頻繁に使ってそうだけどもねvv

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